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来たる年、2006年(平成18)は、干支に当てると丙犬(ひのえいぬ)になる。そん
な訳で、過去の戌歳を振り返って洋傘に関する変遷を辿ってみることにしました。温
故知新とか・・・・・。(2005年12月筆)
〔1874(明治7)年・甲戌(きのえいぬ)〕・・・・・あんパン誕生
この年、銀座に進出したパン店の木村屋が「あんパン」を発売、1個5厘。翌8年
に明治天皇が隅田川に行幸の折、水戸家がこのあんパンを茶菓子に供したところ、大
変に喜ばれて以来、宮内省納品目となる。「へそパン」は、宮内省御用達の特製品と
して考案されたもの。
<洋傘>
既に慶応3(1867)年に「此頃西洋の傘を用ふる人多し。和俗蝙蝠傘といふ」(武江年票
)と記述されるほど関心を集め、明治になって文明開化風潮の中で増々人気が高まり
、特に士族官吏層の必携品になる程であった。
明治4年、三代目広重が描いた『横浜各国商館之図』には、商館前の賑やかな人通
りの中に和服女性や洋装男女が洋傘をさして歩く姿がみられる。また、同年の落合芳
幾『安愚楽鍋』には牛鍋に舌つづみする官吏(勿論、洋服姿)が、脇に帽子と洋傘を置
いて描かれ、同6年の西村芳藤『本朝伯来、戯道具くらべ』では、和傘(蛇の目)が洋
傘に圧倒されている様を、戯画で表現している。
同7年の『東京開化繁盛誌』では、大小喬(芸者と半玉)を随伴させた断髪(ザンギリ
)の若い華族士が和服姿で洋傘をさし、横の甘酒売りは前方の担い樽の上に和傘をさ
し立てている。洋傘はこのような風俗画の題材になるほどの流行物であったことをう
かがわせる。
〔1886(明治19)年、丙戌(ひのえいぬ)〕・・・デンキブラン発売
東京・浅草花川戸の三河屋銘酒店(のち蜂ぶどう酒の神谷酒造)が輸入洋酒を加工
して安価なブランデーを造り「電気ブラン」として発売。前年から流行したコレラ予
防に効能があるとして大いに売れる。
<洋傘>
G.ビゴー『日本素描集』(明治19年刊)に、洋傘をさした「富山の薬売り」が描かれて
いる。
千金丹の売薬行商人が商品の宣伝も兼ねて洋傘を携行したのは明治13年からのこと。
この頃、手元の握り部分にニッケルメッキ加工したものが出る。また、洋傘は男性
用が先行的であったが、上流社会婦人たちのアクセサリーとして流行するようになり
、翌20年の鹿鳴館開館もあってその傾向を助長した。
〔18998(明治31)年・己戌〕・・・西郷隆盛銅像成る
東京・上野公園内で西郷隆盛銅像の除幕式が行われ(12月18日)、勝海舟や英国大使ア
ーネスト・サトー等8百名もの名士が参集した・除幕されると、親族の西郷従道らか
ら「顔が似ていない」の声が出たり、犬の耳が垂れているのはおかしい(薩州産の犬
は耳が立っている
)とか、何かと話題になった。
<洋傘>
晴雨いずれにも用いる便利なものとされてきたが、この頃から機能性の分化が進み、
雨傘が独立するようになり、女性用のパラソルは装飾性が増すようになる。
また、明治5年頃から始まる洋傘製造は大いに興隆して、この年の輸入額3,662円に
対して、輸出は62万7千円にものぼっている。
当年の国内生産は、396万5千本余、218万1千円余。単純計算で一本約55銭になる。
明治30年代の洋傘小売価格は、男物の並物が4〜6円、やや上物で7〜12円、高級品が
17〜18円、女物は甲州産絹張りで7〜13円、西陣産絹張り15〜25円、子ども傘は2円
50〜80銭ぐらいとされるから、かなりの利幅があったといえようか。
〔1910(明治43)年・庚犬(かのえいぬ) 〕・・・日本人による初飛行。
陸軍大尉徳川好敏が、明治神宮に隣接した代々木練兵場でフランス製複葉機に乗り
初飛行に成功。20回以上も滑走を繰り返し、大勢の見物人が詰めかけた。飛行は最
高高度70mで航行3000m。同じく日野熊蔵大尉がドイツ製短葉機で高度20m・700mを飛
行。
<洋傘>
前年(明治42)に農商務大臣の認可を得て東京洋傘問屋同業組合が設立(4月28日)し
ている。組合員68名。組長=土屋忠太郎。
当時の洋傘業界は、東京の骨問屋が強い勢力を持っており、大阪の骨材料は殆どが
東京から供給され、傘製造業者もその圧力を受ける状態であった。
〔1922(大正11)年・壬戌(みずのえいぬ)〕・・・・・モガ・モボの時代
この頃、モガ(モダンガール)は断髪、モボ(モダンボーイ)にはオールバックが流行
した。女性がおしゃれで贅沢するようになる。北沢楽天の『時事慢画』では、婦人の
風刺画に「物価の下らぬ原因は・・・婦人に聞け!」とキャプションしてある。その
婦人にはパラソルを手にしており、贅沢品の一つと見られているようだ。
<パラソル>では、レースの二重張りが出る。
友禅染の2重張り物は13円50銭〜15円50銭といったところ。<洋傘>では、フランス
の流行を模した8間(けん)の「四角型」張り、12間の「モミジ葉型」張りが三越百
貨店で販売されている。甲州産傘地はタテ糸に人絹糸を使い、生産性を上げている。
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