■前原光榮の傘創り
昭和天皇の時代から、皇室の方々の傘を作成しお納めしてきた東京の傘工房 前原光榮商店。

「傘という漢字のなかにある人の文字は『生地、傘骨、手元、加工の4つのパーツをうけもつ匠たち』を指す」 「物造りは、まず人造り。」これが創業以来受け継がれる理念です。

喩えれば酒蔵に優れた菌がやどり続ける限り、変わらぬ上質の酒ができあがるように、前原にも傘造りの菌が確実に棲みついています。 そして杜氏達は変われども次世代へ工法と造る心を語り伝えるから、その極上の味わいは永年変わることはありません。 なによりの財産は、 傘造りを大事にすることで傘という字の中に包括される沢山の人々を大事にしたということ。 その人々は「前原光榮の傘造り」の何たるかを確実に知っているのです。

前原を取り巻く職人達の「前原の傘はかくあらねばならない」という良質のプライドがあるからこそ、 クオリティの高いものが次々完成していくのでしょう。自由で柔軟な発想を展開する前原の傘創りは、まだまだ進化を続けます


■一生ものの傘とは
一生もの、とは一生壊れない傘という意味ではありません。 壊れない傘というのはこの世には存在しません。 人間が病気になったり怪我をしたりするように、傘達も不具合を 訴えることがあります。それは傘が生きている証拠です。

問題は、このときに的確に診断治療のできる体制が整っているか どうかというところになります。それができればこそ、一生 つきあっていけるライフパートナーになる=一生もの となります。
とはいえ、一生とは確かに長すぎるかも知れませんので 10年〜20年程度のスパンでとらえていただければどうでしょう

職人の傘はモデルチェンジが頻繁にはないので、部品の保有 年数が長いですし、しかも職人達も「自分の傘だから」という意識 で面倒見良くしてくれるので、パーツさえあれば20年たっても 修理が可能です。

ただし一生ものを一生ものとして使えるかどうかは、どこでお求め になるかによると思います。

メンテに関する知識、そして職人・職場とのパイプライン、修理の 流れに添うインフラ、すべてを持っている店で購入をされませんと 一生ものである傘の寿命が短くなってしまいます。

その意味では百貨店や専門店といったところがお薦めできます。 スポット的、イヴェント的に取り扱っている販売業態での購入は このような「一生もの」クラスの職人傘をお求めになるのは、 避けたほうが賢明かもしれません。

●一生ものとは一生壊れない傘でなく、メンテを繰り返して  長く愛着をもって使える傘である
●時の流れに朽ちるデザインではなく、20年たっても時代遅れと  ならず、かえって価値を増す傘である。
●そのためには、店のクオリティを見定める必要がある。  一生つきあえる店があればこそ、それは生涯の友となりうる


匠の傘コンセルジェ JUPA認定アンブレラマスター
心斎橋みや竹(創業明治29年 生粋の傘専門店)
四代目店主宮武和広


■日本の雨には日本の傘

随分前のことですが、 傘生地を売って欲しいと遥々日本にきた英国の傘メーカーに、きっぱりと断わったことがあります。 「骨とハンドルがついて、はじめて傘というんですよ」このこだわりが私達の誇り。

日本の雨は重たいのです。欧米の軽い雨なら濡れても爽やかなのですが、質量が高いため濡れたら不快と感じます。 海外で買って帰った傘が防水面で使用に耐えないことがあるのも、このせいでしょう。 英国と比べ大粒の日本の雨には、日本の雨を知っている国産の傘が一番といえるでしょう。


■真のブランドを求めて

前原光榮の使命は「手作りの文化を伝え続ける」ということです。 突き詰めれば、傘は雨をしのぐ道具。まずは「道具」としての要素が 優れたものでなくてはなりません。 しかし物をはこべれば良いという「目的」だけなら、 紙袋だけで事足りますが現実はそうではありません。 TPOに合わせて、 独自の価値観を満たすことのできるような、自己表現のできる「道具」でなくてはなりません。

良き車をかえばドライブに行きたくなるように、 素敵な服を買えば、街へ出かけたくなるように、 前原光榮の傘を買えば、雨降りが楽しくなるような、待ち遠しくなるような、 そんな傘を創造しつづけたいですね。

前原光榮はリピーターを増やすこともテーマ。 一度失意を抱かれると、もうニ度とそのメーカーの傘は手にされないでしょう。 買っていただいた方には必ず気に入っていただけて、ご納得ご満足いただける。 また今度も前原の傘を買ってみたいと思う。 自分の友人にも、家族にも、そして本当に大切な方への贈り物として…。

お母さんが嫁いだ時に選んだ傘だから、娘の仕度品としても揃えたいと思う。 お父さんが一人前になった時に手にした傘だから、息子が成人したら誂えてやろうと思う。 そういった、傘の世界では一見無縁とも思われる 「生涯顧客」「代々顧客」を培っていきたい。これも前原光榮のテーマです。

また、私達の傘の良さは「時の流れに朽ちない生命力」 前原光榮の良さは『モデルチェンジがない』ということです。 目先の流行を追い求めて様々なスタイルに姿をかえるライセンス商品と違い、 ずっと基本的なモデルチェンジがないからこそ、長年のメンテナンスが効きます。 真のブランドとは、きっとそういうものです! お客様の想い入れを大切にしたいのです。

一過性のものではないから、十年・二十年たっても修理ができる傘。 そして決して時代遅れなどとは言われない傘。愛着をもち年月を重ねていくにつれ、 光をはなっていけるような品、 「前原光榮の傘は一生ものだよ」と言われるのが、何よりの誇りです。 そして前原の傘は変化はなくとも進化します。

興味深いエピソードを紹介しましょう。 統括する立場の私が、職人にいろんなアイデアを持ちこむと 「慎史さん、実は私も同じことを考え、既にやってありましたよ」と微笑まれるのです。 私がもつ以上に、職人さんたちが愛着をもたれ、 「前原の傘ゆえにいい加減な仕事はできない」という強い気持ちを、自主的に 抱いておられるのです。この職場との阿吽の呼吸も、またうちの物創りの特色です。

最後にもうひとつ! (残念ながら)大きなメーカーさんほど商品の扱いがぞんざいにならざるをえません。 返品を受けた傘を投げたり、上をまたいだり…私には耐えられません。 前原の誇りはひとつひとつの傘にやどる「いのち」を大事にしたいということ。 傘は大事な人生のパートナーです。一本一本にやどる大切な「いのち」を 是非大切にしてあげてください。すると傘も貴方に忠誠を尽くすことでしょう


前原光榮商店 三代目 前原 慎史