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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
◆◆◆雪のあれこれ◆◆◆




=== 雪に映える傘 ===

 日本の伝統的な四季の自然美を表わす言葉に「雪月花」がある。冬は他の季節に比
べるとやや殺風景な感じに受け取られがちだが、雪が演出する風情にはまた独特な味
わいがある。
 四季それぞれの雨の風景に彩りを添えてくれる傘だが、雪の中で見る傘のさまざま
な色合いは、周囲が単彩がちなだけに、ひときわ情緒ある雰囲気を醸し出してくれる
・・・・・。
 赤い傘をさした女性が、白いベールを透かしたように雪の降る空間を静かに移動す
る・・・・・
そんなシーンも想像されたりして。

 朝日新聞夕刊(1月17日)のコラムに、次のような素敵な句が紹介されていた。


   雪の傘人美しと思ひけり          晴子




 雪と傘と女性との構図の中に新しい”美”が発見されている。この「美しさ」は単
に美人ということではなく、心(精神)の清々しさも含むものであろう。印象的な傘
の点景。





=== 雪は「つらい」か「はつらつ」か ===


 太宰治は、昭和19年(1944)に故郷の地を訪れて、佳作『津軽』を世に出しいる。
その冒歌掲げたのが「津軽の雪」として、こな雪・つぶ雪・みづ雪・かた雪・さらめ
雪・こほり雪―――であった。雪への呼び名を介して、作者の故郷に対する強い思い
入れが伝わってくる。
 そういえば、同じ地方出身のある演歌歌手も、似たような雪の呼び名を入れて唄っ
ていたように思われる。

 雪は天からの便りである、と言ったのは中谷宇吉郎博士だったろうか。雪の結晶は
六角形が有名であることから「六花(むつのはな)」という美名もある。
 一般の代表的な雪の呼び方には、粉雪・綿雪・牡丹雪(ぼたんゆき)・小米雪(こ
ごめゆき)・細雪(ささめゆき)・飛雪・淡雪(あわゆき)・沫雪(あわゆき)・小
雪・大雪・吹雪(ふぶき―地吹雪・雪煙)・・・・などがある。また、雪明かり・雪
の声・朝の雪・夜の雪・雪の宿・雪見・雪囲い・雪掻きなど、雪を生活の中で楽しむ
ように取り込んだ呼び名も多々あったりして、本来は冷たい雪を暖かく包んでいる。

 積雪の多い地方は、生活上でも何かと不都合をかこつことだろうが、それをむしろ
プラスに考えようと「雪はつらつ宣言」をした所があった。ところが、そのスローガ
ンを「雪はつらいよ宣言」と紹介したという笑えないような話しもあった。雪の楽し
さを連想できず、雪は生活につらいものだという先入観からの、うっかりしたミスで
あったのだろう。




=== 雪の漢字熟語から ===

 雪の字を付した漢字熟語から幾つか。

◎ 雪案(せつあん)―――案は机の意で、雪明かりの机をいい、苦学すること。似
たような熟語に蛍雪(けいせつ)がある。現在では死語に近い?。

◎ 雪意(せつい)―――雪が降りそうな空模様。雪催(ゆきもよい)に同じ。

◎ 雪花(せっか)―――花のような雪。雪を花に見たてていう語。風花(かざばな
)は、晴れているのに風に乗ってきて雪片が舞うこと。

◎ 雪然(せつぜん)―――雪の降るようにシラサギの飛び降りるさま。

◎ 雪肌(せっき)―――雪のように白く美しい肌。またその人。雪膚(せっぷ)と
も。

◎ 雪線(せっせん)―――山の一年中積雪のとけない部分の下方限界線。

◎ 回雪(かいせつ)―――風が雪をくるくる回す様子。袖を翻して巧みに舞いを舞
う形容。

◎ 江雪(こうせつ)―――川や入り江のほとりの雪。水ぎわの雪。

◎ 宿雪(しゅくせつ)―――去年からの残り雪。日を経ても消えないで残っている
雪。

◎ 霜雪(そうせつ)―――霜と雪と。白い毛髪、ひげなどのたとえ。

◎ 雪胴(せつどう)―――ぼんぼり。紙または絹張りの覆いのある手燭

◎ 雪花菜(おから・きらず)―――豆腐の絞りかす。うのはな。


 なお、沫雪・淡雪は共に「あわゆき」と読むが、前者は泡のように消えやすい雪。
後者はやわらかい雪・春の消えやすい雪で、多少ニュアンスに違いがある。

 前出の太宰治(俳号・朱鱗)が雪を詠んだ句―――


   今朝は初雪あゝ誰もゐないのだ







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