《マイケル・ジャクソンの傘》
アメリカの歌手マイケル・ジャクソンが少年に対するセクシャル・ハラスメントの
嫌疑をかけられ、その最初の裁判が開かれるとして、裁判所へ入る姿がテレビのニュ
ース映像で報道された(H.17 2月1日) M.ジャクソンは、白づくめのスーツで身を
包み、後ろから黒っぽい色合いの大きい傘を差し掛けさせていた。
多分、白い装いは、自分が潔白であるとの意思表示であり、大きな傘を差し掛けさ
せたのは、自分がスターであるとする権威の象徴を演出したのであろうと、映像を見
ながら推測をめぐらせたことである。
洋の東西を問わず、かつて傘が王や君主たちの権力的地位を象徴するものであった
ことを思い出させる、印象的なシーンではあった(当日は、雨が降っている様子もな
く、取材記者も”日傘”と報告していたから、雨を防ぐ実用上から使用ではかったこ
とは間違いないであろう)。
《歳時記の中の日傘》
持って出て 少し日の欲し 春日傘 (細井 みち)
春3月〜5月は、夏に劣らないほど紫外線の量が多い。しかし、せっかくの日傘を
持って外出したのだから、少しは陽が輝ったほうが、その甲斐もあろうに・・・・・
といったところが句の意に含まれていようか。
ある時期まで、日傘を差すのは「オバさん」っぽいとして若い女性間で嫌われがち
であったものだが、近年は健康・美容上の紫外線対策として、日傘の効用が評価され、
同時にファッション性のある商品が世に送られて、春夏秋と使用されるようになって
いる。
俳句の歳時記には「春日傘」があり、単に「日傘(パラソル)」といえば、夏の季
語である。
日傘さし 孤絶の円に安んずる (草村 素子)
真夏の厳しい陽光の下、日傘のつくる影が孤絶の円となって身を包む、そこに心の
安堵を覚える・・・・・といった心境であろうか。日傘を差すという女性の特権を喜
び、自らの存在〜の確かな意志が感受される。
※俳句は二編とも角川書店『合本俳句歳時記』新版(昭和63年10月刊)より。
《小説「満願」の白いパラソル》
『白いパラソル』といえば、松田聖子のヒット曲でもあったかと思うが、強く印象
づけられているのは、太宰治の短編小説『満願』の中で、年若い奥さまが「くるくる
っとまはした」白いパラソルの情景である。
言外に意味をふくめて戒められていた若い奥さまに、「けさ、おゆるしが出た」。
その彼女の弾むような心の在り様が、くるくるっと回される白いパラソルに見事に映
像化されている。
《江戸時代にもあった晴雨兼用傘》
日傘(パラソル)と同時に現在は「晴雨兼用傘」も重要なアイテムになっている。
雨天兼用の日傘は「アン・トウ・カ」といわれ、19世紀中頃以降に、イタリアで愛用
されたようである。
日本では、和傘でそれより早く、弘化年間(1844〜48)に、京阪地方で「雨天傘」
が作られている。これは張り紙に荏油または柿渋を引いて防水効果をだしたようであ
る。
洋傘としての晴雨兼用型は、大正12年(1923)頃、東京の松坂屋が創案、続いて三
越が改良を図ったともいわれ、昭和6年(1931)頃から15年(1940)頃まで流行。
一時は雨傘をしのぐほどであったという。
現在の紫外線防止効果のある生地が日傘に採用されたのは、平成2年(1990)からの
ことである。
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