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文・著作権 鈴木勝好(洋傘タイムズ)

Y O U G A S A * T I M E S * O N L I N E
「傘のデモ行進」三題




アピール効果バツグン―
 古代ギリシャのバッカス神祝祭のパレードでは、女性たちがパラソルを掲 げて参加したといわれる。この場合の傘(パラソル)は、バッカス神の持つ強 い生命(産)力とエロスを象徴するものと考えられていた。ギリシャ彫刻で傘 が表現されている時、それは必ず「男性」の神聖さを示し、バッカス神に関 係があるとされる。 また、古代ローマ時代には、円形劇場(コロセウム)で三頭立て二輪馬車の競 技が行われる際、女性たちは贔屓するチームを意味する一定の色に染めたパ ラソルを携行して応援したといわれる。  現代日本のプロ野球界でも、東京ヤクルトスワローズのファンが、ビニー ル傘を振って応援する光景はよく知られるところである。「雨に咲く花」に も例えられる傘だが、確かに雨の街中を行き交う様々なカラーやデザインの 傘は、何となく人の心に明るさ、楽しさを誘発してくれる。そして傘は相応 の空間を占める存在だけに、持ち主が思う以上に他者からの注目度が高いも のである。 そんな一面を有効に利用すれば、傘は大いにアピール効果を発揮することに なろう。
天皇陛下銀婚式奉祝の洋傘行列
 東京洋傘問屋同業組合の『創立20周年記念』誌(昭和4年4月刊)大正14年 (1925)の条に「5月10日、銀婚式奉祝の為、洋傘行列を挙行す」とある。 同年4月24日の役員会で「聖上陛下銀婚式奉祝の為、催物をなすこと」との 決議を承けて挙行された洋傘パレードである。  同誌にはそれ以上の記述が無いので、どのような方法や人数で、どんな コースで行列を行ったのかは不明だが、陛下への奉祝に加えて、東京市民 に洋傘なるものを大いにアピールする機会になったことであろう。  東京は二年前の大正12年9月1日にマグニチュード7.9相当といわれる関 東大震災に見舞われ、当時は未だ復興ままならず、米価の高騰、失業と就 職難、生活苦などの深刻な情況下にあった。しかし、同組合では一年余の 間に組合員の被災状況調査や処理事業などを進め、14年には活発な運営に 取り組み、上記洋傘行列と併せて天皇、皇后陛下への洋傘献上、更には各 種の産業振興行事への出品参加を行うなど「東京製品」の復興と振興に努 めている。 14年中に出品参加した主な催事では、日本絹業博覧会(神戸市、4月10日〜 5月25日)に13名が出品。中国で開かれた大連勧業博覧会(8月10日〜10月18日) に14名が出品、全員受賞。東京商品見本市(9月7〜9日)に9名が出品など。  同業組合の組合員数は、大正12年1月現在で115名だったが、15年1月時 点でも同数となっている。一方、東京主導であった洋傘骨製造業では設備 等―の被害が大きく、廃業や職人の大阪移住などがあり、以降、大阪の傘 骨製造が盛んとなっていく。
60年の安保反対「パラソル・デモ」
 昭和35年(1960)は、日米安全保障条約改定に対する反対闘争に揺れた。 反対デモには労働組合員や学生のほか、一般のサラリーマンや主婦層ま でが参加した。5月14日には10万人が国会請願デモ、6月4日には全国で 580万人がデモに参加、同15日の全学連主流派の国会デモの際には東大生 の樺美智子さんが死亡している。19日に安保改定は自然承認の形となった が、7月15日に岸内閣が総辞職して池田内閣が成立した。  さて、岩波書店『近代日本総会年表』の1960年に「5.20 パラソル・ デモ」の記述がある。当時の新聞には、「百人ほどの女性がプラカード もなく、パラソルをさし…三列縦隊で…」と報じており、パラソルでデ モ行進をする女性たちの姿が目立っていたことが想像される。一行は新 聞の投稿が縁でできた「草の実会」のメンバーたちであった。
売上税送葬集会デモで黒い傘の行進
 昭和62年(1987)2月4日に「売上税導入」が国会提出され、全国の中小 零細商工業者を中心に反対の声が強く出た。東京では早くも同6日に35の 業界団体が結集、1800名が参加して導入反対総決起大会が開かれた。 3月11日には日比谷公園の野外音楽堂で「売上税送葬集会」が開かれ、 6000人が参加。その後、大蔵省前→虎ノ門→新橋→数奇屋橋→東京駅前 のコースでデモ行進した。 この集会には、東京洋傘協同組合から60名余が参加し、黒い生地の傘に 白で「売上税反対」と大書きしてデモ行進を行い、沿道の人々や取材陣 の目を引いた。  反対運動は全国的な広がりを見せ、4月12日の統一地方選挙で自民党が 大敗するところとなり、売上税は廃案に追い込まれるに至った。この年、 自民党の竹下グループが田中派から独立して経世会を結成。11月に中曽 根内閣に代わって竹下内閣が発足した。

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