●死語にしたい「核の傘」
傘はもっぱら、雨とか陽射しを防いでくれる用に役立つものだが、一方では危険な
ものなどから疵護(ひご)してくれるもののイメージとして応用されることも少なくない。
少し前、作詞者との間でひと悶着のあった森進一が歌う『おふくろさん』の中では、
困っている人を助けてあげられるよう、「世の中の傘になれよ」というのが、母親の
教えであった。他人を思いやる気持ちが傘のように人々の上に広がれば、お互いに
もっと平和な暮らしが実現するのは確かであろう。
さて、「傘(からかさ)の下」といえば、かつては人の集まる広場(市場や祭りの
境内など)とか道ばたに大きな傘を立て、その下に薄縁(うすべり)を敷いて飲食物を
供する店(上方では特に酒)のことであった。
室町から江戸初期に製作された洛中洛外図などにもその様子が描かれている。
同じ傘の下でも「核の傘の下」となると、庇護されるという安心感よりは、一寸先
が不明の恐怖感がつきまとうように思われる。
そんなところに、世界一の核保有国とみられるアメリカのオバマ大統領が、4月に
チェコのプラハで演説し、「核兵器を使用した唯一の国」として道義的責任に触れ、
「核なき世界」を目指す考えを表明したことは、二度の核兵器攻撃を受けた国民の
一人として、大いに賛同できることであった。
その後、オバマ大統領にノーベル平和賞が授与されたことで、その言動は世界中
から注視されたことになる。やがて「核の傘」が死語になることを願いたい。
●銀行が貸し出す傘
民主党政権に代わった内閣で金融相に就任した亀井静香氏が、中小零細企業
者向住宅ローン利用者で、銀行からの借金返済に困っている人々を助けるために、
3年ほどの返済猶予措置を講じたい、という趣旨の発言をして話題を集めた。
中小零細企業者にとって、銀行からの融資(借金)は、命の綱でもある。
ところが昔から中小零細企業者の間において「銀行は天気(景気)の良い時には、
盛んに傘を貸したがるのに、いざ雨が降りそう(運用資金が必要な時)になると、
貸し渋りをする」という声がよく聞かれていたものである。
手持ちがない時に貸してくれた傘だからこそ有難さが身にしみるのである。なまじ
借りたばかりに、未だ雨が降り止まないうちから「返してくれ」と催促されたのでは、
立つ瀬がないという仕儀になる。
銀行さんが貸し出す傘だって、元はといえば各企業や個人の皆さんから預かった
ものである。「核の傘」の怖さより「銀行の傘」が命取りになんてことでは、甚だ困った
ものである。困った時こそ、お互いに「相合傘」の精神で雨をしのぎたいものである。
●イキな男が貸す傘は・・・
映画では昔の名画やヒット作品のリメーク版がよく登場するが、最近、テレビの
CMでも放映されている。場面は、古風な感じのする路地の一郭。和服姿のいなせな
男が和傘をさして歩いていると、向こうから小粋な着物姿の女が小走りにやってくる。
一瞬、立ち止まる男と女。…男は女に傘を渡し、雨の中を去る。それを見送る女の
視線を背中に意識した男は、着物の襟をさっと立てる所作をして走り去る。…
その合の間に「酒は大関、心意気」の歌が流れる、というもの。和傘が雰囲気を表現
する重要な役目を果たそうとしている。
オリジナル版での男は田宮二郎が演じ、リメーク版では稲垣吾郎。いなせな男ぶり
をした田宮は嫌味なくキザっぽく、稲垣は少しだけ滑稽味のある演技で共にいい味を
出している。
さて、この場合の傘だが、男が女に渡して自分は濡れるのを我慢するところに
「心意気」の核心があるというもの。もし、男女が相合傘で行く後ろ姿を見せられで
もしたら、安っぽいメロドラマ調になり、視聴者には酔い覚めならぬ興覚めになって
しまうかもしれない。
●銀傘広げるエコ球場
今年のプロ野球、阪神タイガースは本拠地の甲子園球場が改装されたのに、成績の
ほうは残念な結果に終わった。その甲子園球場に築かれた大屋根は「しろがねのかさ」
すなわち「銀傘」と呼ばれている。
その大きさは約7500平方メートルという。その24%に相当する約1800平方メートルに
太陽光発電設備が設置され、一年間のナイター照明の使用量に相当する、年間で
19万3千キロワットを発電(2010年3月稼動予定/原稿執筆時の情報)するという。
エコな野球場として銀傘が輝きを増し、阪神タイガースが躍進することを期待したい。
●不吉な「オオシロ カラカサ ダケ」
茸の種類で傘の名が付く「オオシロカラカサダケ」というのがあるそうだ。熱帯地域
に生殖する毒茸で、温暖化現象の指標にされる。それが本来は無いはずの日本で
生え始めているという。西日本に散見されるが、群馬県辺りにも見られるとか。
こんな傘(からかさ)は願い下げにしたいものである。
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